「うちの子、これといって得意なことがないんです」 「このまま普通で終わって、AI時代を生き抜いていけるのでしょうか?」
教育委員として、そして子どもを育てる一人の母として、こうした切実な声を耳にする機会が増えました。文部科学省が「好きを育み得意を伸ばす」という方針を打ち出していますが、その「肝心の得意が見つからない」と焦ってしまうのは無理もありません。
しかし、元生物教師の視点から言わせていただくと、「才能がない子」なんて、この世には一人も存在しません。 ただ、その種が芽吹くための「土壌」と「タイミング」が合っていないだけなのです。
今回は、行動遺伝学の第一人者・安藤寿康先生の知見をヒントに、遺伝という「設計図」をどう活かし、親としてどう子供の才能に伴走すべきか、5つの具体的なステップでお伝えします。
ステップ1:「不純な動機」の中に才能の芽を探す
安藤先生は、才能を「ついやってしまうこと」と定義されています。 親が期待する「高尚な趣味」や「立派な特技」である必要はありません。
- ひたすら石を並べている
- YouTubeの動画編集の真似事ばかりしている
- 友達の相談に乗ってばかりいて勉強が進まない
これらはすべて生物学的な「個体差」であり、才能の原型です。まずは親のフィルターを外し、子どもの「無意識の行動」を観察することから始めましょう。
ステップ2:親の「設計図」を横に置く
行動遺伝学において、親の教育方針(共有環境)が子どもの才能に与える影響は、私たちが思うよりも限定的だと言われています。
「私がスポーツが得意だったから、この子も」という期待は、時に子どもの本来の設計図を邪魔してしまいます。教育委員として多くの親子を見てきましたが、親が「諦め」ではなく「手放し」をしたとき、子どもの才能は勝手に動き出します。
ステップ3:「ガチャ」の回数を戦略的に増やす
「遺伝」という種を咲かせるには、多様な環境との接触が不可欠です。これを私は「環境ガチャ」と呼んでいます。
STEAM教育や国際バカロレアが重視するように、一つの教科に縛られず、アート、科学、ボランティアなど、「低コストで試せる場」を家庭内外で作ってあげてください。当たりの環境を引くまで、何度もガチャを回すサポートをするのが親の役割です。
ステップ4:点数にならない「非認知能力」を言語化する
「計算が早い」のはわかりやすい得意ですが、「誰もいないところでゴミを拾える」「失敗しても笑い飛ばせる」といった非認知能力も、立派な生存戦略です。
生物学的に見れば、集団の中で生き残る(共生する)ために最も重要なのは、こうした数値化できない特性です。「それもあなたの才能だよ」と親が言葉にしてあげることで、子どもは自分の特性を自覚し始めます。
ステップ5:「自立と共生」のバランスを見守る
最終的なゴールは、見つけた得意を「自分のため(自立)」だけでなく「誰かのため(共生)」に使う喜びを知ることです。
「あなたの得意なことで、クラスの友達が喜んでくれたね」という経験は、どんな100点のテストよりも子どもを強く、賢く育てます。
おわりに:才能探しは「宝探し」ではなく「発掘」
才能は、外から持ってくるものではなく、子どもの中に最初から埋まっているものです。 教育委員として制度を整える側からも、母として子どもを見守る側からも、私が一番伝えたいのは「焦らなくて大丈夫」ということ。
あなたの子どもは、そのままで十分に「多様性」の一翼を担う、貴重な個体なのです。
記事作成の参考にさせていただいた書籍
今回の記事は、行動遺伝学の第一人者である安藤寿康先生の以下の著書から多くの示唆を得て執筆しました。科学的な視点から深く知りたい方には、ぜひご一読をおすすめします。
- 『日本人の9割が知らない遺伝の真実』 (SB新書) 遺伝が人格や才能に与える影響について、誤解されがちな点を科学的根拠に基づいて解説されています。
- 『遺伝子の不都合な真実——すべての能力は遺伝である』 (ちくま新書) 遺伝と環境の相互作用が、個人の特性形成にいかに複雑に関わっているかを学べる一冊です。
