ミツバチは「いつの太陽」を伝えているのか

── 暗記では届かない、生きもののすごさ

高校生物でミツバチの「8の字ダンス」を扱うとき、
私はいつも少し迷います。

これ、ちゃんとやろうとすると、めちゃくちゃ面白い。
でも、ちゃんとやろうとすると、定期考査には向かない。

今日は、そんな教材づくりの葛藤と、
それでも「やっぱり扱いたい」と思ってしまう理由について書いてみます。


ミツバチのダンスは、教科書ではこう説明される

教科書には、だいたい次のように書いてあります。

  • 巣から近い餌場 → 円形ダンス
  • 巣から遠い餌場 → 8の字ダンス
  • 巣の中の垂直な壁では
    • 真上=太陽の方向
    • 尻を振る直進部分の角度=餌場の方向
    • 尻を振る時間=距離

ここまでなら、
「なるほど」「覚えればいいね」で終わります。

でも、私はどうしても引っかかってしまうのです。


太陽、動いてませんか?

ミツバチが餌場を見つけてから、巣に戻ってダンスをするまで、
ある程度の時間がかかります。

その間に、太陽はどうなるでしょうか。

そう。
太陽の見かけの位置は、地球の自転によって動いています。

それなのに、

  • ミツバチのダンスは正確
  • 仲間は迷わず餌場にたどり着く

……おかしくないですか?

もしミツバチが
「その瞬間に見えている太陽の方向」を
そのまま伝えているだけなら、
方向はずれてしまうはずです。


ミツバチがやっていた「とんでもないこと」

実はミツバチは、

  • 体内時計(概日時計)をもとに
  • 太陽が1日の中でどう動くかを考慮し
  • 将来の太陽位置を補正した方向

を、ダンスで伝えています。

これは
「時間補償型の太陽コンパス」
と呼ばれます。

つまりミツバチは、

「今の太陽」ではなく
「仲間が飛び立つ頃の太陽」

を見越して、情報を変換しているのです。

……すごくないですか?


ここが一番面白い。でも、一番テストにしにくい

この話を授業で扱うと、生徒の反応はだいたいこうです。

  • 「え、そんなことまで考えてるの?」
  • 「ミツバチ、頭良すぎない?」
  • 「本能って言っていいの?」

そう。
理解がひっくり返る瞬間が起きます。

でも、この面白さは、

  • 選択肢問題
  • 用語暗記
  • 25字記述

には、なかなか乗りません。

定期考査にすると、どうしても
「時間補償」「体内時計」という結果だけを問う形になります。

正直に言うと、
面白さは半減します。


だから私は「評価しないワーク」を作りました

そこで今回は、
点数をつけないことを前提にした
ワークシートを作りました。

  • 正解を書かせない
  • まず直感を書かせる
  • 矛盾に気づかせる
  • 「え?」を大事にする

最後に書いてもらうのは、こんな問いです。

そのうえで私は、こんな問いを生徒に投げました。

ミツバチのダンスについて、
授業の最初には気づいていなかったこと・
「そこまでやっているとは思わなかったこと」を
1つ書いてください。

点数はつけません。
正解も求めません。
ただ、考えが動いた痕跡だけを残してもらいます。


学力とは、答えを知っていることだろうか

ミツバチのダンスを通して、生徒に伝えたいのは、

  • 生きものは、思っている以上に複雑な世界を生きている
  • 「本能」と「学習」は単純に分けられない
  • 科学は、矛盾に気づくところから始まる

ということです。

これは、
暗記では測れないけれど、
確実に「学力」だと思う力です。


おわりに

ミツバチのダンスは、
テストに向かないかもしれません。

でも、

「世界の見え方が少し変わる」

そんな授業をつくれる教材だと思っています。

だから私は、
今日もまた
「やりにくい教材」を
あえて扱ってしまうのです。